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2008-03

北京オリンピックと、ひきこもる面々

日本のメディアでも紹介されていますが、チベットでの抗議運動に対する弾圧 が続く中国でオリンピックを開催することに関して、USA TODAYのChristine Brennanさんが、国際オリンピック委員会(IOC)を厳しく批判する記事を書いて います。

先のエントリ「中国の真実の顔」で、 民主運動家の魏京生(Wei Jingsheng)さんの言葉を紹介しましたが、北京でオ リンピックを開催することの目的は、中国での人権問題に光をあて、それを緩 和することを目論んでのことであったはずです。

USATODAYのChristine Brennanさんも、以下のように、そのことを指摘していて、 中国をより開かれた社会にするということが、北京にオリンピックを与えた主 たる理由の一つであったことにもかかわらず、実際には、IOCは中国政府に対 する有効な働きかけを行ってきていないことを指摘しています。

Making China a more open society was one of the major reasons for giving the Olympics to Beijing ― that, and selling billions of Cokes and Big Macs.

中国をより開かれた社会にすることが、北京にオリンピックを与えた主たる理由の一つだった。- それと、莫大な数のコーラとビックマックを売ることも。

But, sadly, as far as anyone can tell (turn on the evening news to judge for yourself), the IOC has done nothing to force change in China. In a miscalculation that grows more egregious by the day, the IOC appears to have let China be China, and now millions of people, including, potentially, the world’s athletes, are paying a very steep price.

しかし、悲しいことに、誰しも分かる通り(ご自身で判断するために夕方のニュースをご覧ください)、IOCは中国に変化をもたらすためにできることを何もしてこなかった。日増しにひどくなっていく計算違いの中で、IOCは中国を中国のままにしておこうとしているように見える。そして、今、世界のアスリートを含む何百万の人々が非常に不当な代償を払おうとしている。

In fact, in a grand slap at IOC logic, and in the ultimate ironic twist, giving the Olympics to China has only made life worse for those who dare speak out against the Communist government. It’s been impossible not to notice that crackdowns against those heroic souls actually are increasing as the Games draw nearer.

IOCの論理にとっては手厳しい非難であり、この上なく皮肉であることに、実際のところ、中国にオリンピックを与えたことは、共産党政府に対し勇気をもって反対の声をあげた人々の生活を悪化させただけだ。英雄的な人々に対する弾圧が、現実にオリンピックが近づくにつれて増えていくことに気づかないでいることは難しくなっている。

IOCが、政治的に中立であるという論理で、中国政府に対してより強く働きかけ ることを拒むのであれば、結果として、多くの人々が代償を払うことになりま す。このままの状況が続けば、オリンピックが近づくにつれて、中国の人権問 題に対して敢然と反対の声をあげる勇気ある人々と、中国政府とのあいだの緊 張は高まる一方です。

また、オリンピックが政治的なイベントではないというのは、現実無視の議論 です。実際問題として、中国政府は、平和的に台頭する中国というイメージを アピールするために北京オリンピックを利用しようとするでしょう。だからこ そ、ドイツ、ポーランド、チェコ、エストニア、スロバキアのなど、ヨーロッ パの幾つかの国の首脳が、オリンピックの開会式に出席しないことを表明して いるわけです。

オリンピックの大会自体をボイコットすることは、これまで懸命な努力を重ね てきたアスリートたちの努力を考えると、現時点では適切な方法ではないと思 います。しかし、このまま現在の緊張が続くことは、大会自体をボイコットす るリスクを高めているだけとも言えます。また、不安定化した情勢では何が起 きるか分からないという意味で、想像したくないことですが、オリンピック開 催中の安全に関する不安も頭をもたげてきます。

Christine Brennanさんが、以下のごとく言っているように、IOCが、2004年オ リンピックでは、会場整備の準備の遅れについて厳しく対処しようとしたにも かかわらず、より重要な人権も問題で口を開くことを躊躇っているのは、矛盾 です。

IOCは、スポーツによって世界を一つにするという崇高な目的をもつ組織のはず であるにもかかわらず、政治的に中立であるという建前を隠れ蓑に、その目的 に基づいた行動をとらないのは、IOCは存在の意義を失っていると思います。

What’s so confusing is that the IOC had no trouble at all coming down hard on Athens before the 2004 Olympics for its tardiness in finishing venues that were, in fact, done on time. Yet now it refuses to speak out on the far more important issues of human rights in China, Darfur and Tibet.

混乱させられるのは、IOCが、2004年オリンピックの前、会場整備の準備の遅れについては - 実際に間に合ったわけだが -、 躊躇することなくアテネに厳しくあたったことだ。しかるに、今、中国、ダフール、チベットにおける人権の問題という、ずっと重要な問題に関しては口を開くことを拒んでいるのだ。

It’s as if the IOC is a collection of civil engineers rather than a high-minded organization trying to bring the world together through sport.

IOCは、スポーツを通して世界を一つにしようという高い志をもった組織というよりは、土木技師の集団の集まりのようだ。

日本政府の対応はどうなんだろうと言うと、福田首相は、チベットで起きてい ることに対して、3月29日のインタビューで、次のように述べています。

「チベット騒乱と五輪結びつけるべきではない」 首相インタビュー詳報・下(3月29日) (1/2ページ) - MSN産経ニュース

チベット問題が発生し、国際社会で波紋を広げていますが、この問題については事態を重視して、日本としても、われわれとしても懸念をいたしている。早期にかつ平和裏にこの問題が沈静化されていくことを強く期待しています。中国側には透明性の確保を促すとともに、双方が受け入れられる形で、関係者間の対話が行われることを歓迎すると、こういう立場を中国には既にもう伝えています。関係者間で冷静に早期に解決してほしいと考えています。状況改善のためのメッセージをそういうふうな形で伝えています。まあ一方ね、声高に批判したり、そして今から五輪と関連させるようなことをうんぬんするということが今の段階で適当であるかどうかはよく考えなければいけないと思っています。

この前段には、今年は、日中平和友好条約締結30周年、中国共産党の胡錦濤 国家主席の訪日、北海道洞爺湖サミット、北京五輪というような日中が交流す る重要な行事が続くので、日中関係を発展させるよい機会だと捉えているとい う福田首相の発言があるので、この発言は、日中間の友好的な交流を最優先し て、人権の問題には目をつぶりますと解釈せざるをえません。

無論、それが国益にかなうものであるならば、一国の首相の判断としてありえ ることでしょう。しかし、本当にそうでしょうか。「関係者間の対話が行われ ることを歓迎する」という他人事かのような、この言語感覚は、日本という国 の価値を損なっているとしか思えません。

「声高に批判したり、そして今から五輪と関連させるようなことをうんぬんす るということが今の段階で適当であるかどうかはよく考えなければいけないと 思っています」というのは、チベットでの人権問題に対して厳しく批判してい る人々は、福田首相にとっては、「声高に批判している人」という言葉で捉え られており、当事者以外は、声をあげることが適切かどうか考えてみないとい けないですよ、と言っているわけです。

「今の段階で適当であるかどうかはよく考えなければいけない」という、逃げ の可能な言い回しを使っているつもりかもしれませんが、現在の状況が続けば、 事態は改善しないどころか、Christine Brennanさんの記事にあるように、北京 オリンピックが近づくにつれて、事態が悪化する可能性も危惧されている中、 「よく考えなければいけない」という判断回避の態度は、中立的な態度ではな く、人権抑圧側に立っていると言わざるをえません。

IOCにしても、福田首相の発言にしても、自分たちが本来掲げるべき目的を放棄 して、自分たちの領分を勝手に決め、その中にひきこもっている態度に見えま す。「声高に批判する」人を横目に、事態を静観しているのは、決して冷静な 態度でも、賢明な知恵の溢れた態度でもありません。安全な領域にひきこもっ て声をあげないことが、得策であると思い込み、実際にはそのことが自分や多 くの他者を危険にさらしていることに気づかない愚かな態度であると思えます。

北京オリンピックと企業が追い求めるもの

北京オリンピックに広告を出しているスポンサー企業は、チベットにおける反 政府抗議活動の弾圧を受けて、対応に苦慮しているようだ。

次のように、International Herald Tribuneの3月20日付の記事では、「北京オ リンピックでの広告に既に何百万ドルの支払いを約束している企業は、チベッ トでの状況が企業イメージを傷つけると思えたとしても、広告をとりやめるこ とは難しいだろう」としている。

Advertising boycott of Olympics unlikely - International Herald Tribune Published: March 20, 2008 

Companies already committed to spending millions to advertise at the Beijing Olympic Games would find it hard to pull their ads if they felt the situation in Tibet was hurting their images.

同じ記事の中で、幾つかのスポンサー企業の声明が紹介されていて、たとえば、 コカコーラ社は、「皆さんとともに、チベットの現状上に深い懸念を表明しま す。スポンサーが、個々の国家の政治的な状況にコメントすることは適切では ないかもしれませんが、オリンピックが善を促進する力であると信じています」 と述べている。

“The Coca-Cola Co. joins others in expressing deep concern for the situation on the ground in Tibet,” the company said in a statement.

“While it would be inappropriate for sponsors to comment on the political situation of individual nations,” Coca-Cola said, “we firmly believe that the Olympics are a force for good.”

サムスンは、「オリンピックは政治的なデモンストレーションに焦点があてら れるべきではありません。私たちは、オリンピックに参加するすべての人々に、 そのことの重要性を認識していただきたいと思います」と述べている。

Samsung Electronics said the Games should not be a focus for political demonstrations “and we hope that all people attending the Games recognize the importance of this.”

コカコーラもサムスンも、たとえ建前であろうとも、チベットで起きているこ とに関して、企業のなにがしかの姿勢を言わんとしていることは伝わってくる。

この記事を読んで驚いたのは、松下電器が、「いかなる政府に関する政治的な 問題にもコメントいたしません」と述べたことだ。松下電器は、パブリックイ メージというものをどう考えているのだろう。こういうのは毅然とした態度と は言わない。この企業は、チベットで起きている問題には無関心なのだなとい うことが伝わってくる。

Matsushita Electric, maker of the Panasonic brand, stressed its 20-year history with the Games and said it would not comment “on political issues concerning any government.”

マクドナルドは、「政治的な問題は、政府や、国連のようた国際機関によって 解決される必要があります。私たちの役割は、常に、世界中のアスリートと、 彼らのチームをサポートすることにあります」と述べている。

McDonald’s, also a longstanding sponsor, said political issues needed to be resolved by governments and international institutions like the United Nations. 
 
“Our role is always to help support athletes and their teams the world over,” said a McDonald’s spokesman, Walt Riker.

コカコーラ、サムスン、マクドナルドも、広告を取りやめるわけではないし、 彼らは、現時点では、広告を打つことよる企業イメージの悪化よりも、広告契 約を続けることによって得られる利益の方が大きいと考えているのだろうが、 少なくとも、チベットで起きていることに対する関心は示そうとしている。そ れを偽善と呼ぶ人はいるだろうが、松下電器のように、何もコメントしないと いう態度は、利潤以外には関心がありませんというメッセージさえ伝わるので はないだろうか。

こういう中で、気骨ある態度を表明している中小企業の社長さんもいらっしゃ る。砲丸作りで非常に高い評価を受けている「辻谷工業」社長の辻谷政久さん は、2004 年サッカー・アジア杯での中国サポーターのマナーの悪さや反日デモ がきっかけとなって、「こんな国に大事なものを送るわけには行かない」とし て、北京オリンピックへの砲丸提供を断ったのだそうだ。

J-CASTニュース:埼玉の世界一砲丸作り職人「北京五輪提供しない」
埼玉の世界一砲丸作り職人「北京五輪提供しない」| エキサイトニュース

中国チベット自治区の騒乱の影響で、一部で北京五輪へのボイコットが叫ばれているが、日本の砲丸作り職人が北京五輪への砲丸の提供を断っていたことが分かった。3大会連続で男子砲丸投げのメダルを「独占」、世界一ともいわれる職人だ。きっかけは、2004年に中国で行われたサッカー・アジア杯での中国サポーターのマナーの悪さや反日デモ。「こんな国に大事なものを送るわけには行かない」というのだ。

同大会への砲丸の提供をやめたのは、埼玉県富士見市にある「辻谷工業」。世界一とも言われるこの砲丸は、社長の辻谷政久さんが手作りしている。「重心」が安定しているため、飛距離にして1~2メートルも違うといわれるほど選手からの評価は高い。

企業が利潤を追い求めるのは当然のこと。しかし、利潤を追求するということ は、利潤以外の価値観は二の次でよいということは意味しない。企業は、世の 中をより良い場所にするということを最高の目標として掲げるべきだ。これは 書生論ではない。世の中は、そういう企業の姿勢を求める方向に進んでいるの です。

中国の真実の顔

魏京生(Wei Jingsheng)さんが、Washington Postに、中国の真実の顔(China’s True Face)という記事を寄稿している。

Wei Jingsheng - China’s True Face - washingtonpost.com

魏京生さんは米国を拠点に活動している民主運動家だ。この記事において、 魏京生さんは、国際オリンピック委員会(IOC)のジャック・ロゲ会長が、チベットでの抗議行動を中国政府が弾圧していることに対し反対の立場を表明しないことに関して、オリンピックの精神に反することとして、批判している。

チベットへ海外のメディアが入ることが禁じられているため、今チベット で起きていることが何なのか、その真実を知ることは、私にはできないが、 少なくとも、これまで中国共産党がチベットに対して行ってきたことは、 苛烈な弾圧であり、人権の蹂躙以外のなにものでもないと理解している。 今、チベットで起きていることも、これまでの中国政府によるチベットの 抑圧の歴史、ダライ・ラマ法王が言葉を借りれば、中国政府がチベット人 を2級市民として扱い、いわばチベット人を文化的に虐殺しようとしてき た歴史にその原因がある。

魏京生さんは記事の中で次のように述べている。

北京オリンピックは、現代の中国の歴史におけるターニングポイントで あり、彼らの権力の構造がガラス張りとなって露わに示されるときであ る。中国政府は、世界に対して示す平和的台頭(Peaceful Rise)の笑顔 と、国内における残忍な抑圧の容赦のない顔をもはや両立させることは できない。

北京オリンピックは、中国政府に真実の顔を見せるように仕向けること になるだろう。IOCをはじめ、国際的な圧力があってこそ、それが、我々 皆が見たがっている顔となる。

魏京生さんの言うように、北京オリンピックは、中国政府が国内で行って いる人権弾圧を見直すきっかけとなることが望ましい。そもそも、北京で オリンピックを開催することの目的は、中国での人権問題に光をあて、そ れを緩和することを目論んでのことであったはずだ。

国際オリンピック委員会が、政治的に中立であることを建前にして、中国 政府に対して圧力をかけることを躊躇うのであれば、筋違いである。政治 とは人々に幸福をもたらすために存在するものであり、国際オリンピック 委員会が特定の国家に属するものではないものであれば、なおさら、国際 オリンピック委員会は中国政府に対して圧力をかけるべきである。

チベット騒乱

チベットのラサで、3月10日に発生した僧侶らによるチベット独立を求める抗議 活動が、14日には民衆を巻き込んだ大規模な騒乱へと発展し、武装警察などが 武力による鎮圧を行った。

新華社通信は、死者は10人で、いずれも市民が巻き添えになり死亡したもので あると報じたが、中国共産党による情報発信であり、鵜呑みにはできない。イ ンドのチベット亡命政府は、チベット人のデモ参加者30人の死亡を確認した とする声明を発表している。チベットには海外のメディアが入ることができず、 事実を確認することができないというのが現状だ。報道されている映像や写真 も中国政府が発表しているものであり、中国政府にとって有利になるような印 象操作が行われているとみるのが適切だろう。

中国政府は、「暴動はダライラマ14世集団が策動した。十分な証拠がある」と 言っているが、今回の騒乱の背景には、中国共産党による長年にわたる苛烈な チベット支配に対する怒りがある。

そして、今回もまた、中国共産党は、武力による強硬な姿勢でチベット民族の 怒りを抑えこもうとしている。以下のワシントンポストの記事は、中国政府が、 今回のラサでの抗議活動に関して、チベット人の独立派に対して投降の最後通 牒(ultimatum)をつきつけたことを伝えている。暴動に加わったものは17日の 夜までに投降せよ、さもなければ徹底的に弾圧するというメッセージである。

China gives Tibetan protesters surrender ultimatum - washingtonpost.com
China on Saturday gave Tibetan independence protesters an ultimatum to surrender after riots in Lhasa which killed at least 10 people in the worst unrest in the region for two decades.

チベットの現状は、日本にとっても、中国という大国と向かい合う国の一つと して、決して対岸の火事ではない。日本政府は、中国政府がチベットで行って いる武力行使や人権侵害に対して、明確な抗議のメッセージを発信すべきなの だが、町村官房長官が「基本的には中国の国内問題とはいうものの、双方が自 制して混乱が拡大しないことを望みたい」という、緩い発言をしたのみである。

これでもまだ、日本政府がチベット弾圧問題に関して中国政府に自制を求める というのは、異例なことなので、進歩といえば進歩なのかもしれないが、抗議 すべきときに、はっきりと抗議の意思を示さないと、敵からも侮蔑され、付け いれられることになる。

中国国家主席の胡錦濤の来日が5月初頭に予定されているが、こんな状態で来日 を受け入れたら、福田政権の支持率は地に落ちるのではないだろか。

ニューヨーク州知事、売春関与で謝罪

米ニューヨーク州のエリオット・スピッツァー知事(民主党)が、高級売春組織の顧客となっていた疑惑が報じられたことを受け、 夫人と共に会見を開き、家族と住民への謝罪を表明した。捜査当局による盗聴で判明したということのようだ。辞任の求める声が高まっているが、会見では辞任の表明はなかった。

スピッツァー知事は、ヒラリー・クリントンの有力な支持者の一人で、大統領選の民主党の特別代議員(super delegates)の一人でもある。

以下のWashington Postの記事でも触れられているが、ヒラリー・クリントンにとって打撃となるのは、有力な支持者の一人がこういう事態になったということだけでなく、今回の事件は、多くの人に夫ビル・クリントンのモニカ・ルインスキーとの一件を想起させてしまうということにある。

今回の謝罪会見で、スピッツァー知事の横で痛々しい表情で並ぶ夫人の姿は、どうしても、あの一件を思い出せてしまうのである。みんな忘れていたというのに。

実際、ある記者はヒラリーに今回のスピッツァー知事の事件についてコメントを求めたが、ヒラリーはコメントをしなかった。二度と質問されたくないであろう。上のWashington Postの記事にあるように、ビルは、コメントを求められたら、何と答えるのだろう。

もちろん、今回の事件は、ヒラリーとは何の関係もない。しかし、大統領選においては、候補者のイメージが大切な役割を果たす。ヒラリーにとっては不運なアクシデントが起きてしまったと思う。

副副大統領

米民主党の指名候補者選びで、ヒラリー・クリントンは、3月4日のオハイオ州、 ロードアイランド州、テキサス州のプライマリーでの勝利の後、11月の本選挙 (一般投票)でのクリントン-オバマ、あるいは、オバマークリントンの大統 領候補-副大統領候補の組み合わせの可能性について質問されて、次のように 答えている。

Hillary Clinton hints at joint ticket with Obama - Los Angeles Times

今の事態が向かっている先は、そういうことかもしれないが、今は、誰が大統領候補になるかを決めなければならない。オハイオ州の人々は、それは私であるべきだと、はっきりと言ったのだ。

That may be where this is headed, but, of course, we have to decide who is on the top of ticket. I think the people of Ohio very clearly said that it should be me.

一方、オバマは、クリントン-オバマ、あるいは、オバマークリントンの大統 領候補-副大統領候補の組み合わせについて、次のように答えている。

Obama: Too Early To Discuss Shared Ticket - CBS News

それを議論するのは時期尚早だ。私が副大統領候補となることは見たくないだろう。私は、大統領を目指して、選挙戦を戦っているのだ。

Well, you know, I think it’s premature. You won’t see me as a Vice Presidential candidate. I am running for President.

まあ、そうだろう。現段階で誓約代議員の獲得数で有利に進めているのは、オ バマであって、クリントンは、これからの州の予備選で勝ち続けても、誓約代 議員の獲得数でオバマに追いつくことは難しいとされている。この時期にクリ ントン-オバマ、あるいは、オバマークリントンの組み合わせに言及するメリッ トは、オバマ陣営にはない。

Los Angeles TimesのAndrew Malcolmが面白いことを言っている。

Hillary Clinton hints at joint ticket with Obama - Los Angeles Times

現実的に考えて、ヒラリー・クリントンに率いられて副大統領になったら、ホワイトハウスでは、2人のクリントンといっしょに働かざるをえなくなるだろう。それは、副副大統領(vice-vice-president)の立場におかれるかもしれないということだ。

Plus, to be realistic, whomever is the Democratic vice president on any successful ticket led by the New York senator will actually be forced to work with a pair of Clintons in the White House, making him potentially vice-vice-president.

副副大統領か。うまいこと言いますね。

米大統領選

米大統領選は、現時点で、共和党はジョン・マケインが指名を確実にしている が、民主党はバラク・オバマとヒラリー・クリントンが指名を争っている状況 である。

他国の選挙であり、気にしても仕方ないのだが、民主党の指名候補争いが混戦 になっているということもあって、ウェブ上のニュースやブログの記事を読ん でいると、それぞれの立場からのフィルターがかかった報道や記事もちらほら 見えてきて、なかなか面白い。

各党の指名候補者選びのプロセスは複雑であり、完全に理解できているとは思 えないのだが、最初に簡単に書いておく。

米大統領選は、共和党、民主党が、各党を代表する候補者を指名することから 始まる。各党の指名候補者選びは、各州で行われるプライマリー(primary)と コーカス(caucus)という2つの方法によって進められる。大雑把に言って、 プライマリー(primary)は、投票所での無記名投票の結果によって代議員を選 出する方法であり、コーカス(caucus)は、党員集会によって代議員を選出す る方法である。各党ごとに、それぞれの州がプライマリーとコーカスのいずれ の方法をとるかは決まっている。なかには、民主党のテキサス州のように、プ ライマリーとコーカスを組みわせた方法をとる州もある。

各州のプライマリーやコーカスでの結果に応じて、その州の誓約代議員 (pledged delegates)が各候補者に配分される。共和党は、プライマリー・コー カスで最も得票率が高い候補者が、その州の誓約代議員を総取りするという方 式を採用している。一方、民主党は、プライマリー・コーカスでの得票率に比 例して誓約代議員が配分されるという方式を採用している。これも、民主党の 指名代表者選びが混戦となっている理由の一つである。

各州での指名代表者選びを経た後、各党の党大会が開催される。党大会におい て、誓約代議員は、各州のプライマリー・コーカスの結果にしたがって割り当 てられた候補者を支持することが決められているが、このほかに、いわゆる特 別代議員(super delegates)と呼ばれる、誓約をしなくてもよい代議員がいる。 特別代議員は、各州のプライマリー・コーカスの結果とは関係なく、党大会に おいて自由に支持候補者を選択できるのである。共和党の特別代議員はそれほ ど多くいないのが、民主党は特別代議員が全代議員の2割を占める。

通常、各州でのプライマリー・コーカスの結果によって、各党の指名候補者が 決まるので、党大会は指名候補者を推戴したお祭りになることが普通である。 しかし、今回の場合、民主党の指名候補者選びは混戦となっており、各州での プライマリー・コーカスの結果だけでは、指名候補者が決まらない可能性が高 く、党大会へ向けて、特別代議員の票の行方に注目が集まっている。

さて、3月4日に行われたオハイオ州、テキサス州、ロードアイランド州、バー モント州での民主党の指名候補者選びは、クリントンがオハイオ州、ロードア イランド州と、テキサス州のプライマリーで勝利し、オバマがバーモント州を 制した。テキサス州のコーカスはまだ最終結果が出ていない。

民主党のテキサス州の場合、同州に割り当てられた代議員数の3分の2をプラ イマリーで、残りをコーカスで決めるという制度が採用されているのだが、コー カスの集計に時間がかかっているのである。

どういうわけか、3月4日の結果に関して、クリントンの勝利をことさら強調し たような報道があるのだが、民主党は、各州の誓約代議員を得票率に比例して 配分するという方式を採用しており、且つ、両候補の支持に大きな差が開いて いるわけではないので、3月4日の結果、クリントンがオバマに対して稼いだ誓 約代議員の数はそれほど多いわけではない。むしろ、3月4日の結果を受けて、 クリントンが、土俵際で踏みとどまったという情勢分析が適切だろうと思う。

しかも、現時点の情報では、テキサス州のコーカサスではオバマが有利であり、 より多くの代議員を獲得しそうな勢いである。クリントンがテキサス州のプラ イマリーでより多くの代議員を獲得したといっても、コーカスの最終結果と合 算したときに、テキサス州の誓約代議員をより多く獲得するのがどちらかは、 まだ分からない。

いずれにせよ、テキサス州のプライマリーにおいてクリントンが稼いだ代議員 数の差は、コーカスの結果が出れば、より小さいものとなるだろうし、ことに よっては、オバマが、テキサス州のプライマリー・コーカスの合算でより多く の代議員を獲得する可能性があるということである。

さらに、3月8日のワイオミング州のコーカスはオバマが制した。

民主党の代議員の総数は4049人であり、指名候補者となるためには、その過半 数の2025人を獲得する必要があるが、クリントンは、引き続く各州の指名候補 選びで勝利を重ねても、民主党大会の前に、誓約代議員の獲得数に関してオバ マに追いつくことは難しいとされている。一方、オバマの方も、民主党大会の 前に、指名を決定づける誓約代議員を獲得することは難しい。

こうなってくると、民主党の代表選出は、各州のプライマリー・コーカスの結 果とは関係なく、党大会で自由に票を投じることができる特別代議員に委ねら れる公算が高い。民主党の特別代議員は、現在796人で、全代議員の2割を占め る。特別代議員は、連邦議会上下両院議員、州知事、党委員会のメンバーから 成っていて、党の重鎮の意見を反映させることが意図されている。

しかし、民主党としては、特別代議員の票によって指名候補者を選ぶという事 態は避けたいだろう。各州での代表選びの結果、オバマが誓約代議員の獲得数 で上回ったにもかかわらず(そうなる可能性が高いが)、党大会での特別代議 員の投票で逆転され、クリントンが代表として選ばれることになると、各州の 代表選びで示された意思は何だったんだろうということになる。密室で決めら れたかのような不透明な印象がぬぐえないし、特に、若い支持者たちが離れて しまうことにもなりかねない。

ここにいたって、民主党の指名候補者選びで、フロリダ州、ミシガン州の再選 挙をしたらどうかという声があがっているようだ。両州は、党の意向にしたが わず予備選の日程を1月に前倒ししたために、党大会への代議員派遣資格を剥 奪されている。1月の予備選では、オバマはミシガン州に不参加、フロリダ州も 選挙活動を自粛したため、結果的にクリントンが両州で勝ったことになってい るが、再選挙となると、おそらくコーカスになると思われるので、クリントン 有利とは言えないだろう。これまでの選挙戦をみていると、コーカスではオバ マは強い。また、フロリダ州とミシガン州が数多くの代議員をかかえていると いっても、いずれかの候補者が圧倒的な差で勝利するとは思えず、結局は特別 代議員の票に委ねられる結果となるのでないだろうか。

クリントン陣営は、フロリダ州、ミシガン州の再選挙に勝って、それによって 誓約代議員の獲得数でオバマを追いつくことができないにしても、大票田に強 いということをアピールし、特別代議員の票に委ねることの正当性を主張する という戦略を立てているのかもしれない。

ともかくお金がかかる大統領選になることは間違いないようだ。

イスラエル軍によるガザ攻撃が激化

イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃が激化している。

ガザは、昨年の6月以来、ハマスが実効支配している地域である。ハマスはイス ラエル領に向けてガザ地区からのロケット弾攻撃を続けており、イスラエルは、 頻発するロケット弾攻撃に対抗して、ハマスメンバーに対するミサイル攻撃な どを行ってきた。

イスラエルでは、2月27日にガザからのロケット弾がスデロト近郊に着弾、昨年 5 月以来となる死者が出たことや、従来型より飛距離の長い高性能なロケット 弾が人口12万人の都市アシュケロンにも着弾するに至ったことがきっかけとなっ て、ガザ地区への大規模な侵攻が避けがたいという見方が強まっている。

3月1日には、イスラエル軍が、ガザ北部のジャバリヤ難民キャンプやベイトラ ヒヤなどで、空軍の支援を受けた地上部隊による掃討作戦を展開し、40人以 上が死亡したと伝えられる。民間人も巻き添えとなったもようである。

こういった中、イスラエル国防次官Matan Vilnaiの次の発言が話題となっている。

As the rocket fire grows, and the range increases … they are bringing upon themselves a greater ‘shoah’ because we will use all our strength in every way we deem appropriate, whether in airstrikes or on the ground.

「ロケット弾による砲撃が拡大するにつれて、彼ら(ガザの人々)は大惨事を 経験することになる。」ということなのだが、議論になっているのは「shoah 」という表現である。ヘブライ語で「shoah」という名詞は、ナチスによるホロ コーストを指すときに使われることが多いので、イスラエルの国防次官が「ガ ザのパレスチナ人がホロコーストを経験する」と発言したとのではないかとい う議論を呼んでいるというわけだ。

Matan Vilnaiの広報担当官は、国防次官は、ナチスにいるホロコーストの意味 でshoahという表現を使ったのではなく、一般の大惨事(disasters)の意味で使っ たのだとしている。

イスラエルにおける言語使用の実態を知らないので、なんとも言えないが、 shoahは大惨事(disaster)を表す普通名詞であり、第二次大戦でナチスが行った ユダヤ人大虐殺としてのホロコースト(the Holocaust)を言い表すときには、定 冠詞のHaをつけて、Hashoahという表現を使うのだという説明は、言語的な直感 には合っている。

a civil war(内戦)、 The Civil War(アメリカ南北戦争)
a white house(白い家)、 The White House(ホワイトハウス)

の違いということなのだろう。

しかし、ナチスによるホロコーストを言い表すときに、惨事を表す他の名詞で はなく、shoahという表現を使うことが多いということは事実であり、その意味 で、shoahが、ナチスによるホロコーストを想起させる言葉であることには間違 いない。イスラエルの国防次官が、そのことに気づかなかったとは思えない。 推測でしか語ることはできないが、強い警告の意味をもたせるために、ホロコー ストを想起させるような表現を意図して使ったのではないのだろうか。品位と 配慮に欠ける言葉遣いであるとは思う。

ともかく、そういった言葉の問題は瑣末なことであり、イスラエルがガザ地区 に対して大規模な侵攻を行う可能性が高まっていることが重大なことである。

イスラエル軍が、ガザ地区に大規模な侵攻を行ったとしても、ハマスを完全に 排除することは困難である。イスラエル政府がその困難さに気づいていないわけで はない。にもかかわらず、イスラエル政府内でそういう機運が高まっていること は、冷静さを失っているという意味で、非常に危険な状況に思える。イスラエ ルが自国の領土と国民を守るために必要な行動をとることは当然のことだが、 ガザ地区に大規模な侵攻を行うことが最良の選択には思えない。軍事的な手段 によってハマスをガザ地区から排除しようとしても、膨大なコストを払った後、 結果として泥沼に陥るのではないか。

ヘンリー王子がアフガニスタンで従軍

英国の国防省は、英王室のヘンリー王子がアフガニスタン南部ヘルマンド州でタ リバンの掃討作戦に従軍していることを明らかにした。

国防省は、ヘンリー王子と彼が所属する部隊に過度な危険が及ぶことを避ける ため、ヘンリー王子のアフガニスタン派遣の事実を伏せるように、英国のメディ アと報道協定を結んでいたが、海外のメディアからのリークがあったため、国 防省がこの事実を認め、英国のメディアも一斉に報道を開始したという経緯で ある。

ヘンリー王子は昨年の12月半ばよりアフガニスタンに派遣されていたが、今回 の情報開示を受け、安全上の理由から、戦闘任務から外れ、ただちに英国に帰 還することが決まった。ヘンリー王子が従軍していることが明らかとなったこ とで、タリバン勢力が集中的に攻撃的をしかけてくることが危惧されるためで ある。

ヘンリー王子のアフガニスタン派遣を公知したのは、オーストラリアの女性誌 「New Idea」が2008年1月7日の記事で書いたのが最初である。しかし、このと きは、New Ideaの記事によっては情報がそれほど広まることはないと見たのか、 英国防省は取り立てて行動を起こさなかった。そのあと、ドイツの新聞「Bild」 が2月27日に報道し、翌日2月28日に米国のウェブサイト「Drudge Report」が記 事にするに及んで、今回の事態となった。

Drudge Reportは、米国クリントン大統領とモニカ・ルインスイキーとのスキャ ンダルを最初に取り上げたことで知られている。Drudge Reportはかなり多くの 読者をもつサイトであり、ここに掲載されれば、一気に情報が広がる。ドイツ の新聞Bildも、300万人以上の購読者をもつ大衆紙であり、Drudge Reportが書 かなかったとしても、世界中に情報が伝わるのは時間の問題だっただろう。

英国防省は英国メディアと報道協定を結んでいたということなので、外国のメ ディアはこの協定に拘束されることはなかったのかもしれないが、情報のリー クが、ヘンリー王子にのみならず、王子が従軍している地域に展開する部隊全 体をも危険にさらすことになるわけで、情報をリークしたメディアやサイトは 責められてしかるべきである。

追記(00:56 a.m. on March 2, 2008):

ヘンリー王子は、3月2日 11:45 a.m.にオクスフォード近くの英空軍の Brize Norton基地に到着し、無事帰国した。

BBC NewsのJon Wiliams(News black-out - BBC News)は、 ドイツの大衆紙Bildは、記事を書いたといっても、限定された紙面コーナー でゴシップ、噂のたぐいとして扱ったもので、推測の域を出たものではな かったので、報道規制を解くことはしなかったとしている。その翌日、 Drugde Reportがフロントページに記事を書いたの見て、英国防省と報道 規制を解くことに合意したと語っている。

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