- 2008-03-30 (Sun) 17:35
- 社会
日本のメディアでも紹介されていますが、チベットでの抗議運動に対する弾圧 が続く中国でオリンピックを開催することに関して、USA TODAYのChristine Brennanさんが、国際オリンピック委員会(IOC)を厳しく批判する記事を書いて います。
- USA TODAY チベット騒乱で“糾弾”「IOCはなぜ沈黙する」 - MSN産経ニュース
- IOC squanders shot to help change China for better - USATODAY.com
先のエントリ「中国の真実の顔」で、 民主運動家の魏京生(Wei Jingsheng)さんの言葉を紹介しましたが、北京でオ リンピックを開催することの目的は、中国での人権問題に光をあて、それを緩 和することを目論んでのことであったはずです。
USATODAYのChristine Brennanさんも、以下のように、そのことを指摘していて、 中国をより開かれた社会にするということが、北京にオリンピックを与えた主 たる理由の一つであったことにもかかわらず、実際には、IOCは中国政府に対 する有効な働きかけを行ってきていないことを指摘しています。
Making China a more open society was one of the major reasons for giving the Olympics to Beijing ― that, and selling billions of Cokes and Big Macs.
中国をより開かれた社会にすることが、北京にオリンピックを与えた主たる理由の一つだった。- それと、莫大な数のコーラとビックマックを売ることも。
But, sadly, as far as anyone can tell (turn on the evening news to judge for yourself), the IOC has done nothing to force change in China. In a miscalculation that grows more egregious by the day, the IOC appears to have let China be China, and now millions of people, including, potentially, the world’s athletes, are paying a very steep price.
しかし、悲しいことに、誰しも分かる通り(ご自身で判断するために夕方のニュースをご覧ください)、IOCは中国に変化をもたらすためにできることを何もしてこなかった。日増しにひどくなっていく計算違いの中で、IOCは中国を中国のままにしておこうとしているように見える。そして、今、世界のアスリートを含む何百万の人々が非常に不当な代償を払おうとしている。
In fact, in a grand slap at IOC logic, and in the ultimate ironic twist, giving the Olympics to China has only made life worse for those who dare speak out against the Communist government. It’s been impossible not to notice that crackdowns against those heroic souls actually are increasing as the Games draw nearer.
IOCの論理にとっては手厳しい非難であり、この上なく皮肉であることに、実際のところ、中国にオリンピックを与えたことは、共産党政府に対し勇気をもって反対の声をあげた人々の生活を悪化させただけだ。英雄的な人々に対する弾圧が、現実にオリンピックが近づくにつれて増えていくことに気づかないでいることは難しくなっている。
IOCが、政治的に中立であるという論理で、中国政府に対してより強く働きかけ ることを拒むのであれば、結果として、多くの人々が代償を払うことになりま す。このままの状況が続けば、オリンピックが近づくにつれて、中国の人権問 題に対して敢然と反対の声をあげる勇気ある人々と、中国政府とのあいだの緊 張は高まる一方です。
また、オリンピックが政治的なイベントではないというのは、現実無視の議論 です。実際問題として、中国政府は、平和的に台頭する中国というイメージを アピールするために北京オリンピックを利用しようとするでしょう。だからこ そ、ドイツ、ポーランド、チェコ、エストニア、スロバキアのなど、ヨーロッ パの幾つかの国の首脳が、オリンピックの開会式に出席しないことを表明して いるわけです。
オリンピックの大会自体をボイコットすることは、これまで懸命な努力を重ね てきたアスリートたちの努力を考えると、現時点では適切な方法ではないと思 います。しかし、このまま現在の緊張が続くことは、大会自体をボイコットす るリスクを高めているだけとも言えます。また、不安定化した情勢では何が起 きるか分からないという意味で、想像したくないことですが、オリンピック開 催中の安全に関する不安も頭をもたげてきます。
Christine Brennanさんが、以下のごとく言っているように、IOCが、2004年オ リンピックでは、会場整備の準備の遅れについて厳しく対処しようとしたにも かかわらず、より重要な人権も問題で口を開くことを躊躇っているのは、矛盾 です。
IOCは、スポーツによって世界を一つにするという崇高な目的をもつ組織のはず であるにもかかわらず、政治的に中立であるという建前を隠れ蓑に、その目的 に基づいた行動をとらないのは、IOCは存在の意義を失っていると思います。
What’s so confusing is that the IOC had no trouble at all coming down hard on Athens before the 2004 Olympics for its tardiness in finishing venues that were, in fact, done on time. Yet now it refuses to speak out on the far more important issues of human rights in China, Darfur and Tibet.
混乱させられるのは、IOCが、2004年オリンピックの前、会場整備の準備の遅れについては - 実際に間に合ったわけだが -、 躊躇することなくアテネに厳しくあたったことだ。しかるに、今、中国、ダフール、チベットにおける人権の問題という、ずっと重要な問題に関しては口を開くことを拒んでいるのだ。
It’s as if the IOC is a collection of civil engineers rather than a high-minded organization trying to bring the world together through sport.
IOCは、スポーツを通して世界を一つにしようという高い志をもった組織というよりは、土木技師の集団の集まりのようだ。
日本政府の対応はどうなんだろうと言うと、福田首相は、チベットで起きてい ることに対して、3月29日のインタビューで、次のように述べています。
「チベット騒乱と五輪結びつけるべきではない」 首相インタビュー詳報・下(3月29日) (1/2ページ) - MSN産経ニュース
チベット問題が発生し、国際社会で波紋を広げていますが、この問題については事態を重視して、日本としても、われわれとしても懸念をいたしている。早期にかつ平和裏にこの問題が沈静化されていくことを強く期待しています。中国側には透明性の確保を促すとともに、双方が受け入れられる形で、関係者間の対話が行われることを歓迎すると、こういう立場を中国には既にもう伝えています。関係者間で冷静に早期に解決してほしいと考えています。状況改善のためのメッセージをそういうふうな形で伝えています。まあ一方ね、声高に批判したり、そして今から五輪と関連させるようなことをうんぬんするということが今の段階で適当であるかどうかはよく考えなければいけないと思っています。
この前段には、今年は、日中平和友好条約締結30周年、中国共産党の胡錦濤 国家主席の訪日、北海道洞爺湖サミット、北京五輪というような日中が交流す る重要な行事が続くので、日中関係を発展させるよい機会だと捉えているとい う福田首相の発言があるので、この発言は、日中間の友好的な交流を最優先し て、人権の問題には目をつぶりますと解釈せざるをえません。
無論、それが国益にかなうものであるならば、一国の首相の判断としてありえ ることでしょう。しかし、本当にそうでしょうか。「関係者間の対話が行われ ることを歓迎する」という他人事かのような、この言語感覚は、日本という国 の価値を損なっているとしか思えません。
「声高に批判したり、そして今から五輪と関連させるようなことをうんぬんす るということが今の段階で適当であるかどうかはよく考えなければいけないと 思っています」というのは、チベットでの人権問題に対して厳しく批判してい る人々は、福田首相にとっては、「声高に批判している人」という言葉で捉え られており、当事者以外は、声をあげることが適切かどうか考えてみないとい けないですよ、と言っているわけです。
「今の段階で適当であるかどうかはよく考えなければいけない」という、逃げ の可能な言い回しを使っているつもりかもしれませんが、現在の状況が続けば、 事態は改善しないどころか、Christine Brennanさんの記事にあるように、北京 オリンピックが近づくにつれて、事態が悪化する可能性も危惧されている中、 「よく考えなければいけない」という判断回避の態度は、中立的な態度ではな く、人権抑圧側に立っていると言わざるをえません。
IOCにしても、福田首相の発言にしても、自分たちが本来掲げるべき目的を放棄 して、自分たちの領分を勝手に決め、その中にひきこもっている態度に見えま す。「声高に批判する」人を横目に、事態を静観しているのは、決して冷静な 態度でも、賢明な知恵の溢れた態度でもありません。安全な領域にひきこもっ て声をあげないことが、得策であると思い込み、実際にはそのことが自分や多 くの他者を危険にさらしていることに気づかない愚かな態度であると思えます。
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