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プロフェッショナルの原点

P.F.ドラッカーの プロフェッショナルの原点 を読みました。

ドラッカーの遺作「The Effective Executive in Action: A Journal for Getting the Right Things Done」の翻訳になります。

訳者である上田惇生氏のあとがきにあるように、この日本語版では、ドラッカー 以外の著作からの引用はすべて削除し、ドラッカーの著作からの引用を追加し たそうです。ドラッカーの洞察のエッセンスが凝縮されており、はじめてドラッ カーを読む方にはお薦めだと思います。

原著のタイトルには、「成果をあげるエグゼクティブ(Effective Executive)」 というフレーズが入っていますが、この本は、なにも、組織の長や、組織の中 で高い地位にある人だけに向けられたものではありません。

次の引用にあるように、自らの知識や専門分野によって意思決定を行うナレッ ジ・ワーカー(知識労働者)は、トップであろうと新人であろうと、すべてエ グゼクティブであると位置づけられています。

今日の組織では、自らの知識あるいは地位のゆえに組織の活動や業績に実質的な貢献をなすべき知識労働者は、すべてエグゼクティブである (p.2)

本書は、こうしたナレッジ・ワーカーが、組織の中で、他人とコラボレーショ ンをしながら、成果をあげていくためには、どういった習慣を身につけなれば ならないかということに焦点があてています。

成果をあげるための5つの習慣として、「時間をマネージメントする」、「貢献 に焦点を合わせる」、「強みを生かす」、「重要なことに集中する」、「意志 決定を的確に行う」があげられています。時間を無駄にしているものを知り、 それを取り除く。自分がやりたいことではなく、自分がなすべき貢献について 焦点をあわせる。自らの強み、部下の強み、上司の強みを総動員し、弱みを意 味のないものにする。優先順位と劣後順位を決め、最も重要なことに集中する。 問題の本質を理解した上で、必要な意思決定を行い、行動に移し、意志決定の 結果を検証する。

5つの習慣は、いずれも、心に響くところがありましたが、なかでも、「強みを 生かす」ことに関しては、深く考えさせられるものがありました。

優れた人事は人の強みを生かす。弱みからは何も生まれない。成果を生むには、 利用しうる限りの強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自らの強みを総動 員しなければならない。強みこそ機会である。強みを生かすことは組織に特有 の機能である。(p.76)

成果を生むためには、弱みに気をとられるのではなく、強みを発揮することに 集中すべきであるということです。

弱みを強みに転じさせることは大変難しく、それよりは、既に強みであるもの を、より強いものに高めていくことの方が容易です。弱みがないことに拘泥す るのではなく、人の強みの上に築きあげていくことが、組織において成果をあ げていくためには得策なのです。

人間は、多くの弱みをもっているものです。ドラッカーの次の言葉にあるよう に、大きな強みをもつ人ほど、大きな弱みをもっていたりします。

大きな強みをもつものは、ほとんど常に大きな弱みをもつ。しかも、山が高け れば谷は深い。あらゆる分野で強みをもつ者はいない。(p.80)

したがって、強みに基づいて成果をあげていくということは、「すべての分野 で強みをもつ者はいない」という人間の特性からして、当然のことと言えます。

にもかかわらず、人の強みを生かすことを第一に考えるのではなく、まず人の 弱みに目を向け、その人ができないことを数え上げ、弱みのなさを重視して仕 事の候補者を選ぶということは、まま行われていることです。そういった態度 には、人がもつ卓越性に対する妬みや、劣等感が背後に見え隠れします。人の 弱みを避けることばかりを考えても、大事を成し遂げる組織とはなりません。

人は誰しも様々な弱みをもっているけれども、組織が人を雇うのは、その人が もつ弱みゆえではなく、その人がもつ強みを生かすためであるべきです。組織 の利点は、人がもっている弱みを中和し、意味のないものとするための手立て を講じることができることにあるはずです。

また、強みを生かすということは、何も仕事という範囲にとどまるものではあ りません。

自らの成長のために最も優先すべきは、卓越性の追求である。そこから充実 と自信が生まれる。能力は仕事の質を変えるだけでなく、人間そのものを変 えるがゆえに、重大な意味をもつ。(p.79)

自らの強みや卓越性に基づいて何かを成し遂げていくということは、自分らし さを実現していくことにつながり、仕事と自己実現の両方を達成することがで きるというわけです。

ドラッカーは、人が強みや卓越性を備えていれば、どんな弱みをもっていよう とも、組織はその弱みを中和できると言っているわけではありません。ドラッ カーは、唯一見逃してはならない弱みがあると言います。それは、この日本語訳で 「人間性」と「真摯さ」と訳されているものです。原文は「character」と「integrity」です。

人間性と真摯さは、それ自体では何事もなしえない。しかし、それらの欠如 は他のあらゆるものを破壊する。(p.117)

これは、ドラッカーの著作の中でも3大古典と呼ばれるもののなかのの一つ「経 営者の条件(The Effective Executive)」からの引用ですが、原文は以下の 通りです。

There is one area where weakness in itself is of importance and relevance. By themselves character and integrity do not accomplish anything. But their absence faults everything else. Here is the one area where weakness is an absolute disqualification.

「character」と「integrity」は、それ自体では何事も成し遂げることはない けれども、その欠除はすべてを失格させるとあります。

「character」は、品性、徳性を意味します。「integrity」という英語は、日 本語に翻訳するのは難しく、高潔さ、真摯さ、誠実さ、清廉さ、といった訳語 があてられていますが、いずれも、その単語だけでは、元の英語を伝えきれて いないところがあります。

「integrity」には、そもそも、一貫しているという意味があり、「ある場所で はこう言うんだけれども、違う場所ではそれと矛盾することを言う」といった ことがないことを意味しています。高い倫理や規範をもち、その高い倫理や規 範に言動が貫かれており、裏表がなく、首尾一貫しており、いかなる権力や圧 力にも揺らがないこと、そういったことが「integrity」の意味するところであ り、そういった意味での高潔さ、真摯さ、誠実さ、清廉さを意味します。

すなわち、ドラッカーは、強みを生かすことを重視すべきであるけれども、品 性と、高潔さ・一貫性が欠如しているという弱みだけは見逃してはならないと 言っているわけです。特に、組織のリーダーにおける品性と高潔さ・一貫性の 欠如は、悪しき見本となり、諸悪の根源となるので、見逃してはならないと述 べています。

確かに、組織のリーダーの立場にある者は、部下や、他の組織に与える影響が 大きいので、組織のリーダーが品性や高潔さ・一貫性に欠けていると、部下の やる気を著しく損なうし、組織を崩壊させることさえあるので、リーダーにとっ て特に重要視される特性であることは、間違いのないことです。それと同時に、 品性と高潔さ・一貫性は、リーダーだけでなく、組織のあらゆるレベルで重要 視されるべきものでもあります。

今日のナレッジ・ワーカーにとっては、従事している仕事が価値の大きなもの であればあるほど、一人で孤立して仕事を進めているという状況は稀であり、 異なる分野で強みをもつ多くの人間が、互いに影響を与えながら、協力して仕 事を進めているという状況が多いです。したがって、リーダー的な立場にはな い人であっても、多くの他人に影響を与えながら仕事をしていることには変わ りはなく、品性や高潔さ・一貫性の欠如は、仕事上の協力関係を損なってしま い、組織全体に好ましくない作用を及ぼすことになります。

品性や高潔さ・一貫性に欠けた人物は、いかなる言葉を弄しても、同僚や部下 から見ると、明らかにそれと分かってしまいます。品性、高潔さ・一貫性を重 要視するということは、私見ですが、人間の本性に近いところにあるような気 がしていて、それらが欠如している人物は簡単に見抜かれます。それらが欠如 した人物が、他人に影響を及ぼす立場にあるにもかかわらず、必要な措置がと られないで、放置されている状態が続くと、組織のマネージメントに対する信 頼が揺らぎ、結果として、全体のモラルや士気が落ちていくことになります。

さて、ドラッカーの言うように、強みの上に成果を築きあげていくためには、 自分が卓越していること、強みを生かせることが何なのかを見つける必要があ ります。しかし、多くの人にとって、それは自明なことではありません。人は 自分の弱みには気づくけれども、強みに気づくことは難しかったりします。

稀に、若いうちから自分の強みを知り、組織の中でそれを生かすことができる 人や、自分の強みを生かすための組織を作ることに邁進できる人や、よく分か らないうちに、組織の中で自分の強みが発揮できる道に入ってしまう幸運な人 もいますが、多くの人は、そうではありません。

多くの人にとって、自分の強みの在りかを確認するためには、まずは、組織の 中で自分が成すべきことは何であるかを理解し、そのために発揮できる自分の 強みは何であるかを考え抜き、どのようにしてその強み生かしていくかという 計画を練り、それを実行に移し、しかる後に、結果を検討する、という過程を 繰り返すしか方法はないように思います。

そういったことの大切さを分からせてくれる人が周囲にいればよいですが、そ ういう薫陶を与えてくれる人に恵まれることも稀なことです。

おそらく、訳者あとがきにあるように、人間にとって、組織というものが最近 の発明であるために、組織の中で人と人がコラボレーションすることによって 成果をあげていくというやり方に、多くの人が長けていないということもある のでしょう。

あと、組織や他人が、自分に対して何をしてくれるかを気にする傾向が強い人 は、自分の強みを生かすということに気づきにくいです。自らの強みを開花さ せるのは、結局のところ、自分しかいないし、自らの強みを開花させるための 環境は与えられるものではなく、自分で見つけ出し、作り上げていかざるをえ ないもののような気がします。

プロフェッショナルの原点
P.F.ドラッカー ジョゼフ・A・マチャレロ 上田 惇生
4478003343

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