ふるさと納税制度
Posted by Kensuke Hoshitani on 27 May 2007 at 4:05 pm | Tagged as: 社会
住民税の一部を生まれ故郷などの自治体に納めることを可能とする「ふるさと 納税」制度が議論されています.
自民党の中川昭一政調会長が「技術的に非常に難しい」と発言していますが, そういった技術論は置いておくとしても,地方税には,地方自治体から受けて いる行政サービスの対価という応益課税の原則があるわけで,実際には住んで いない地方へ住民税の一部を分納するというのは,住民税の主旨に反し,不公 平感を醸成することになります.
住民は,税金を払うだけではなく,税金の使い道を決める代表を選挙によって 選び,その代表たちが変なことをしていないかを監視するということがあって, はじめて地方自治が成り立つわけですが,ふるさと納税制度の場合,現住地以 外の自治体へ税金を納めても,その使い道に対して参政権や選挙権による意思 表示ができません.
また,国民の多くを占めるサラリーマンが,ふるさと納税を申告するために, 面倒になると予測されるな事務手続きを行うとは思えません.それとも,ふる さと納税のための手続きを円滑に実施できるように,新しい部署などが役所に できて,そこに誰かが天下ったりするのでしょうか.実際,それも目的だった りするのではと勘ぐりたくなります.
と考えていくと,ふるさと納税制度は,まともに機能する制度とは思えません. 地域間で広がる税収格差が問題であるならば,住民税の一部を回すといった不 自然な方法ではなく,現住地以外の自治体への寄付金を税額控除するといった 方がよほどスマートです.
あと,以下妄想です.
この「ふるさと納税」というのは,単に,地域間の税収格差を是正するという ことだけで,単発的に発想されたものではなく,少子化やそれに伴う年金制度 の問題と絡んで,現代の日本社会における子ども観や親子関係観を,少し昔に 引き戻したいという考えが背景にあって,そこから出てきているのではないか と,勝手に思っています.
子供を可愛いと思わなかった時代 – FIFTH EDITION にあるように, 人類の長い歴史の中では,「子どもは無条件に愛すべき純粋無垢な存在」とい う子ども観が登場するのは,ごく最近のことで,むしろ,子どもを親や大人た ちにとっての労働力や使役の対象とみなし,子どもが親や大人たちの経済資本 であった時代が長く続きました.
『自分(親)の為の子作り』と『子どもの為の子作り』:少産少死の現代社会における親子関係と社会道徳 では,子どもを作って増やすことが,親の将来利益や老後保障に結びつく伝統 社会では,特別な少子化対策をしなくても,子どもを持つインセンティブ(誘 因)が非常に大きいので,自然に男女は子どもを増やす行動(戦略)を無意識 的に採用する,と論じています.
さらに,上の記事 では,現代においては,親が子どもからの見返りを子どもの義務として期待する 心を否定的に見る道徳規範が醸成されており,それも現代の若者の出産を抑制 している原因の一つと考えられるのではないか,としています.
少子化という現象は,複雑な要因が絡んでいる現象でしょうから,単一の原因 でもって説明することはできませんが,確かに,社会の中での子ども観,親子 関係観が変化してきたこととも,関係しているように思えます.
少子高齢化が進めば,社会はドラスティックな人口構造の変化を経験すること になり,将来年金制度はどうなっていくのだろうという話にもなってくるわけ ですが,とはいうものの,親の世代が老人になったときに,それを支えてくれ る存在として子どもをみなし,自分の老後のために子どもを作りましょうとい う考えが支持されているとは思えません.現代においても親孝行は美徳なわけ ですが,それを前面に押し出して,子どもからの援助を期待するという考えは, 受け入れられない傾向が強いです.
現在構想されている「ふるさと納税」制度というのは,義務ではなく,そうし たい人がそうするための制度ですが,自分を育ててくれたふるさとに恩返しす るという考え方が背景にあることは事実です.
さらに勝手なことを言えば,子どもは,育ててくれた親に恩を返し,親は,子 どものためだけではなく,親自身のために子どもを作る,という方向へ,人々 の意識を少し戻したいという背景があって,そこから今回の「ふるさと納税」 のような発想も出てきているんじゃないかなと,勝手に思っています.
伝統社会が備えていたもののを,必要に応じて,現代社会に合った形で取り入 れていこうとすること自体には,反対ではないですが,それを推し進めようと しているらしい人たちが,言動に説得力がなく,適切な言葉で正面きって論じ ることができていないように見えます.「ふるさと納税」制度というのもそう で,育ててもらった故郷に恩返しするという発想を,現在の税法や地方自治の 考え方とは相容れない,いびつな形でしか提案できないところに,底の浅さを 見ます.