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ヒトiPS細胞に関わる特許の行方

  • 2008-04-12 (Sat) 22:12
  • 科学

独系製薬会社のバイエル薬品の研究グループが昨年春、京大の山中伸弥教授ら の研究グループよりも早く、ヒトiPS細胞を作製した可能性があることが報じら れています。

しかし、バイエル薬品の研究グループによる論文発表は、2008年1月に行われた ということなので、なぜ今頃になって、こういう報道が出てきたのかは、よく 分かりません。

今回の報道からも垣間見えるように、 iPS細胞(人工多能性幹細胞) は、臨床応用や創薬への応用が期待されており、その研究開発や特許をめぐる 国際競争が激化しています。

京大の山中教授らのグループは、世界に先がげて、2006年8月にマウスでのiPS 細胞作製に成功したことを発表しています。これに関わる特許申請は、発表に 先立つ2005年12月に行ったようです。

2007年11月には、山中教授らは、ヒトiPS細胞の樹立に成功したことを発表して います。これは、米ウィスコンシン大と同時でした。

今回報道されているのは、バイエル薬品神戸リサーチセンター(2007年12月に 閉鎖)の桜田一洋センター長(当時。現在は米ベンチャー企業役員)らの研究 グループが、今年2008年1月、オランダ科学誌ステム・セル・リサーチ電子版に ヒトiPS細胞の作製に成功したことを発表したというものです。

桜田氏の話によれば、2007年の遅くとも4月にはヒトiPS細胞を作製したという ことです。山中教授らによるヒトiPS細胞作製は、過去の会見などの発言から、 2007 年7月頃とみられるので、バイエル薬品は、山中教授らのグループよりも 早くヒトiPS細胞を作製したと考えられます。バイエル薬品は特許を出願してい ないそうですが、ドイツのバイエル社が申請した可能性はあります。民間企業 ですから、特許出願していると考えるのが自然でしょうね。

日本やヨーロッパなどのほとんどの国では、先に特許を出願した者に特許が認 められるという先願主義です。米国では、現時点では、先に発明した者に特許 が認められる先発明主義です(米国も、今後、先願主義に切り替わる見込みで す)。

今のところ、京大の山中教授らのグループ、米ウィスコンシン大のグループ、 バイエル社が、ヒトiPS細胞作製に関わる特許を出願した可能性があるわけです が、現時点では、各研究グループの特許出願の有無、時期などの詳細が明らか ではなく、今後、ヒトiPS細胞作製に関わる特許がどうなっていくかは不明です。

京大の松本紘副学長は、山中教授らがマウスでのiPS細胞作製の発表に先がげ て2005年に出願した特許は、マウスやヒトに限定しない動物全体にかかわる 「基本特許」であり、ヒトiPS細胞作製においても基本となる技術を含んでいる ので、大きな問題は生じないという認識を示しています。

しかし、山中教授らの研究グループが基本特許を取得したとしても、民間企業 によりヒトiPS細胞作製などの応用面での特許が押さえられるとなると、日本に おけるiPS細胞の研究開発プロジェクトへの影響は小さくないのではないでしょ うか。

山中教授は、今年の3月に朝日賞を受賞した際の記念講演で、iPS細胞の研究開 発競争は、早く臨床応用できることに寄与するので、それ自体は良いことであ り、そういう競争の中で、日本も、ベストを尽くして、知的財産や特許を押え えていかなければならないと述べていますが、正論だと思いますし、 山中教授が、高い志をもった素晴らしい研究者であることがよく分かります。

asahi.com: 今後の研究体制 山中教授講演全文(5) - サイエンス

このiPS細胞の競争は明らかにマラソンです。柔道ではありません。勝ち負け、アメリカだけ勝った、日本だけ勝った、そういうのはありません。アメリカも頑張る、日本も頑張る、それはいいことなんです。なぜかというと、両方頑張って競争すれば早く臨床応用できるんですね。患者さんにとって1日、1日は長いです。僕は学生によく言うんですが、「おまえらにとって1日は寝ていたら済むかしらないけど、患者さんにとって1日はもう永遠なんだ」。

だから1日も早く完成させる必要がありますので、競争は非常にいいんです。アメリカは非常に強いですからなかなか勝てないとは思いますが、ポイントは、たとえ2位、3位になろうが、自己ベストを目指す。この場合の記録は知的財産、特許でありますから、今後いかに日本も頑張ってこの記録を出していくかということが正念場というふうに考えています。

以下は、山中教授らが、ヒトiPS細胞作製の発表をした当時、TIMESのLeo Lewis氏のインタビューに答えた内容ですが、日本の科学行政の非効率さに対す る苛立ちがよく伝わってきます。

その後、ヒトiPS細胞の臨床応用を目指して、オールジャパンの体制が作られて きてはいますが、今回の報道にあるように、激化する競争の中で勝ち抜いてい かなければならないわけで、山中教授をはじめ、関連の研究者の皆さんが、本 来の研究に集中して、ベストを尽くすことができるような体制が、さらにしっ かりと確立されていくことを切に願います。

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