Deborah Houldingさんが、今月のMountain AstrologerにWilliam Lillyが立てたホラリーチャートについての記事を書いています。若かりしLillyが胸中にいだいていた想い、怖れについての考察がなされていて、読みごたえがありました。
- Deborah Houlding, Lilly’s Purchase of Master B’s Houses, Moutain Astrologer, 145, June/July, 2009, pp.61–64.
ここで取り上げられているチャートは、Lilly自身が、自分自身のために質問した、家の購入に関するホラリーチャートです。Christian Astrology(CA)の中に、”If I should purchase Master B. His Houses”という質問に対するホラリーとして収められているものです。
現在のホロスコープ作成ソフトで再現すると、だいたい次のようなホロスコー プとなります。
If I should purchase Master B. His Houses (William Lilly, Christian Astrology, Regulus(London), 1985, p.219

ホラリーの質問を直訳すると、「主人であるB氏の家を購入するべきか?」となります。このホラリーが立てられたのは1634年です。主人であるB氏とは、Lilly が1620年、19歳の折、故郷からロンドンに出てきたとき、Lillyを召使い・書生として雇ってくれたGilbert Wrightのことです。Gilbert Wrightが19 歳のLillyを迎えた家が、まさにこの家で、Lillyは、この家で働くことになります。この質問がなされたとき、かつての雇い主でGilbert Wrightは既に亡くなっていましたが、Lilly にとっては、たくさんの思い出が詰まった家であったわけです。
少し経緯を説明すると、Lillyは、ロンドンに出てきた当時、大学での教育を父の借金のためにあきらめ、地元の学校の教師として教えていましたが、その前途に希望をもてず、わずかなお金をもって、ロンドンに出てきます。ロンドンでは、Gilbert Wrightに雇われ、召使い・書生として働きますが、LillyにとってGilbert Wrightは良き主人であったようです。Gilbert Wrightは、1627年、Lillyが26歳のときに亡くなり、妻のEllenが財産を相続しました。Lillyは、Gilbert Wrightが亡くなって数ヶ月後に、Ellen にプロポーズし、2人は結婚しました。Ellenは1633年に亡くなり、Lillyは約1,000 ポンドの財産を相続しました。質問に取り上げられている家は530ポンドであり、相続財産を使えば簡単に購入できましたが、事情があって1,000ポンドの相続財産はすぐに支払に回せる状況ではなかったそうです。そこで、Lillyは、売り手との取引が成功するか、家の購入までに必要なお金を手に入れることができるかということを彼自身のために質問したわけです。
ちなみに、Lillyの伝記は次の記事がよくまとまっています。
このチャートが興味深いのは、Lillyが自分自身のために立てたホラリーであることと、チャートの中に示されている買い手(Lilly)にとって不利な点を軽く扱っているように見える点です。Lilly自身もCAの中に書いているように、彼は、どうしてもこの家が欲しかったようです。Deborah Houldingさんは、この取引が買い手にとって経済的に不利かどうかということは、Lillyにとって最重要なことではなかったのだろうと述べています。
実際、このチャートを見てみると、アセンダントルーラの金星はデトリメントで、コンバストされており、月は、ペリグリンで、動きが遅く、12ハウスカスプにあり、火星との合と土星とのスクエアの間に挟まれています(besieged)。火星は、お金を表す2ハウスのルーラで、ペリグリンです。火星は一般に不注意による経済的な損失を表します。月が火星から土星へのスクエアにトランスレートしていることは、経済的に有利な取引にはならないことを示唆しています。
しかし、火星は、11ハウス(友人)にあるという良いところもあり、11ハウスルーラの太陽が4ハウスルーラの土星とトラインのアスペクトを作っています。これは、友人の助けで、取引に必要なお金を手に入れる可能性を示しています。
とはいえ、アセンダントルーラー金星と、月の状態が非常に悪いことは、いかんともしがたいわけで、Lillyは、このチャートを見ても、なぜ取引を進めようとしたのかという疑問は残ります。12ハウスの月は、自身の利益に反した行動をしようとしていることを示しています。コンバストされたアセンダントルーラは、質問者が、アドバイスを受けて合理的に判断することができるような状態ではないことを示しています。
Deborah Houldingさんは、Lillyは、そういったことは当然気づいていただろうと言います。しかし、そうであっても、Lillyはこの取引を行いたいという強い動機をもっていたのだろうと。
Lillyは、CAの中で、11ハウスルーラーの太陽と4ハウスルーラーの土星とのトラインは、友人の援助を表すだけでなく、この取引によって彼の希望や夢が満たされることを表しており、だから、結果として経済的な損失があったとしても、この取引を行うんだと、書いています。このあたり、CAの文章を読むと、結構熱いです。
当時、Lilly は32歳です。占星家として歩み始めたばかりのときであり、社会的には低い位置にあった彼は、遺産の相続権をようやく獲得したところでした。Deborah Houldingさんは、こうしたLillyが置かれていた状況を振り返って、月に着目して、Lillyの想い、怖れについて考察しています。このホラリーチャートで、月は質問者を表しているだけでなく、10ハウスのルーラーでもあります。月は、Lillyの社会的な立場を表しており、この月の状態は、当時、Lillyにとって、お金よりも、社会的な立場の方が重要であったことを表しているのではないかと、Deborah Houldingさんは推測しています。月は、単に家のの所有者になるということだけではなく、かつて召使として働いた家の主として見られた いという欲望を表しているのではないか、月の土星へのスクエアは、彼の社会的立場を家の購入という形で具体化することを表しているのではないかと。さらに、土星や4ハウスは、Lillyの父を表しており、Lillyを役立たず(good for nothing)と言った父に対して、自身を証明したいという強い願望があったのではないかと述べています。
このDeborah Houldingさんの論文は、ホラリー占星術は、単に事の正否を占うだけではなく、その背景にある質問者の置かれた状況や想いにまで踏み込んで読み解いていくことが可能な場合があることを示しています。また、彼女がCAをここまで読み込んでいるというのも、ただただ脱帽です。
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Comments:2
- ほうじ茶 10-01-06 (Wed) 22:12
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星谷様初めまして。 本日初めて貴ブログに訪問させていただきました。 僭越ながら、ウィリアム・リリーとホラリー占星術の大好きな僕にとって、とても楽しく、またレベルの高いブログに出会えた事、とても嬉しく思っています。 これからもどうぞ宜しくお願いいたします。
リリーはCAの中で、いくつも難しいチャートを紹介していますが、このチャートもその一つだと僕は思っています。
と言うか、僕はこのチャートを不動産売買チャートだと、とても思えません。別の事について占っているように見えます。
- Kensuke Hoshitani 10-01-06 (Wed) 22:28
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ほうじ茶様、
コメントありがとうございます。
と言うか、僕はこのチャートを不動産売買チャートだと、とても思えません。別の事について占っているように見えます。
そうなんですか。私は、Deborah Houldingさんの解説を読んで、ホラリーの深さに驚くばかりです。自分にはこんな風には読めないなとただただ脱帽です。
また、色々と教えてください。 今後とも、よろしくお願いいたします。
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