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うお座効果は本当に存在するのか (1)

  • 2008-08-25 (Mon) 2:57
  • 統計

英国のケネス・ミッチェル氏の報告によると、1896年以降の近代オリンピッ クのメダリストの誕生日を調べたところ、水泳や水球といった種目のメダリス トは、それ以外の競技のメダリストと比べて、うお座生まれが30%多かった そうです。ケネス・ミッチェル氏は、これを「うお座効果 (Pisces Effect)」と 名付けています。

水泳や水球のメダリストはうお座が多いというのは、はたして本当でしょうか。 生まれ星座に関する統計はよく見受けますが、疑ってかかるのが賢明というも のです。

そこで、ケネス・ミッチェル氏のサイトで公開されている報告文書を読み、彼が調べたオリンピックのデータベースのデータを自分でも分析しました。

その結果、ミッチェル氏は、うお座効果を実証するに足る十分な統計分析結果 は示すことはできておらず、ミッチェル氏の報告通りに「うお座」効果がある とは言えないという結論にいたりました。

まず、ケネス・ミッチェル氏のうお座効果に関する報道の記事を引用しておきます。

[北京 19日 ロイター] 英国の統計学者ケネス・ミッチェル氏は、1896年アテネ大会以降の近代オリンピックのメダリストすべての誕生日を調べたところ、星座による傾向が見つかったとしている。
 ミッチェル氏が「うお座効果」と名付けた統計的現象によると、うお座生まれの選手は、水泳や水球といった種目でのメダルがそれ以外の選手に比べて約30%多かった。
 また全体では、やぎ座やみずがめ座、おひつじ座生まれの金メダリストが非常に多いとしている。
 北京五輪のメダリストを見てみると、いくつかの興味深い結果が出てくる。
 細い剣を使って相手を突き合う競技フェンシングでは、さそり座選手の活躍が目立つ。男子サーブル個人のメダリスト3人のうち、2人がさそり座生まれだった。

ケネス・ミッチェル氏のサイトはこちらです。

アクセスが集中したためでしょう、一時サイトが閲覧不能になっていましたが、 現在は閲覧できる状態になっています。

ケネス・ミッチェル氏が調査の際に使ったたオリンピックのデータベースサイトはこ ちらです。

ちなみに、「生まれ星座」というのは、占星術では太陽サインと呼ぶほうが正 確なのですが、分かりやすさのため、ここでは「生まれ星座」と呼ぶことにし ます。

さて、スポーツ選手の誕生月の分布に偏りがあることは、なにも不思議なこと ではなく、よく知られた現象です。生まれ星座を持ち出す必要はありません。

従来より、スポーツ選手の誕生月分布の偏りは、スポーツ社会学では、「相対 的年齢(relative age)」という概念を用いて研究されているようです。誕生 月分布の偏りの原因としては、学校の始業次期やスポーツ組織の年齢制限の区 切り月などが考えられます。誕生月の偏りを説明するために、生まれ星座といっ た概念を持ち出す必要はないのです。

学校の始業次期やスポーツ組織の年齢制限の区切り月は、国や地域によって異 なります。オリンピックでは、各国の選手が集まるので、オリンピック選手の 誕生月の分布は、各国に固有の事情が反映され、複雑な要因によって形作られ ることになります。各国のオリンピック選手の誕生月分布を集めると、それぞ れの分布の偏りが互いに打ち消し合あって、一様な分布になることは考えずら いので、オリンピックのメダリストの誕生月や生まれ星座の分布に偏りがあっ たとしても、なにも不思議なことはありません。

また、スポーツ選手であるかどうかには関係なく、そもそも人の誕生月の分布 には偏りがあります。たとえば、日本人の誕生月や誕生日に関する統計が次の 場所に掲載されています。

上の統計結果から分かる通り、各月の長さを考慮したとしても、日本人の誕生 月には偏りがあります。さらに興味深いことに、その偏りの傾向は年代によっ て変化していっているようです。

以上のことを念頭に、ケネス・ミッチェル氏の報告をみていきましょう。ミッチェル氏が言うところのうお座効果は、次のリンク先はに書かれています。

ミッチェル氏の主張をまとめます。ミッチェル氏は、まず、1896年以降の オリンピックにおいて、水泳のメダリストの生まれ星座の分布を示し、水泳の メダリストは、誕生日が一様に分布すると仮定したときに期待される誕生数に 比べて、うお座生まれが30%多く、これは統計的に有意であると主張してい ます。これがミッチェル氏が言うところのうお座効果です。

ミッチェル氏は、うお座(Pisces)はラテン語で魚を意味すると述べ、うお座と 水泳に関連があるのであれば、水泳と関係が深いと思える水球ではどうだろう かと考えたそうです。そこで、水球メダリストの生まれ星座の分布と、水泳あ るいは水球のメダルをとった競技者の生まれ星座の分布を調べると、水球のメ ダリストも、水泳と水球のいずれかでメダルをとった競技者も、統計的に有意 にうお座生まれが多いことが分かったと主張しています。いずれの主張も、誕 生日が一様に分布する仮定したときに期待される誕生数と比べて、うお座生ま れが統計的に有意に多いという議論の組み立て方です。

ミッチェル氏は、水と関係が深い競技ではうお座効果が見られるのではないか と考え、ボート、セーリング、カヌーの各競技でも調べたところ、水泳や水球 ほどではないが、うお座生まれが多かったと主張しています。ただし、ボート、 セーリング、カヌーの生まれ星座分布のデータは示されていません。

さらに、ミッチェル氏は、水と関係がない競技ではうお座効果が存在しないこ とを示すために、水泳、水球、ボート、セーリング、カヌーを除いた全競技に ついて、メダリストの生まれ星座の分布を示しています。その分布に基づいて、 水泳、水球、ボート、セーリング、カヌーを除いた全競技では、うお座効果は 存在しないことと、それらの競技では、やぎ座、みずがめ座、おひつじ座が統 計的に有意に多いと主張しています。

以上がミッチェル氏の主張ですが、これでうお座効果は実証できたことになる のでしょうか?答えはNOです。これではうお座効果を実証できたことになり ません。なぜなら、ミッチェル氏の議論には以下の問題点があります。

(1)スポーツ選手の誕生月の分布に偏りがあることはよく知られていること であり、オリンピックのメダリストに関して、誕生月と関係が強い生まれ星座 の分布に偏りが見られたとしても、驚くべきことではありません。また、多く の国から競技者が参加するオリンピックでは、誕生月の分布に多様な要因が影 響を与えますから、たまたま水泳メダリストにうお座生まれが多いという現象 が見られたしても、その理由が分からないだけで、それ自体驚くようなことで はありません。

ミッチェル氏の分析の問題点は、生まれ星座の分布を示しているが、誕生月の 分布を示していないことにあります。誕生月の分布の偏りには、学校の始業次 期やスポーツ組織の年齢制限の区切り月といった合理的な理由が考えられるの で、生まれ星座という概念を持ち込むためには、誕生月分布と生まれ星座分布 の双方を示し、生まれ星座という説明概念を持ち込む必然性を示さなければな りませんが、それは示されていません。

たとえば、誕生月の分布では統計的に有意な偏りが見られないが、生まれ星座 の分布だと偏りが見られるといったことを示す必要があります。

(2)ミッチェル氏は、誕生日が一様に分布する仮定したときに期待される誕 生数と比べて、水泳や水球のメダリストではうお座生まれが多いと主張してい ますが、この議論は有効なものとは言えません。

なぜならば、第一に、誕生日は一様には分布しているわけではないからです。 もちろん、オリンピックの出場国において、競技者と同じ年代の人々の誕生日 分布を得ることは、非常に難しいことであるわけです。だからと言って、誕生 日が一様に分布することを前提とすることは、乱暴な議論です。 (追記 at 08/26/2008: 少なくとも、一般の人々の実際の誕生月分布では、月ごとの誕生数のばらつきは何%未満になっているといった議論が必要です。)

第二に、たとえ、一般の人々の誕生日分布が得られたとしても、あるいは、誕生日が一様に分布するという前提が適切なものだったとしても、(1)で述べたように、それらの分布と比較して、特定競技のメダリストの生まれ星座分布が偏っていることは、それ自体驚くべきことはないからです。競技者の誕生月の分布も示し、議論する必要があります。

(3)水泳や水球のメダリストは、他の競技のメダリストと比べてうお座生ま れが有意に多いと主張したいのであれば、少なくとも、水泳や水球のメダリス トの生まれ星座分布はオリンピックの全競技のメダリストの生まれ星座分布と は一致しないことを統計的に検定した結果を示すべきです。

カイ2乗の適合度検定は行えるはずなので、それを示さないことには、うお座 効果があるかどうかは実証できません。

(4)よりマイナーな問題点として、水に関係がある競技というのであれば、 飛び込みやシンクロナイズドスイミングに関してもデータを示すべきだと思い ます。都合のよい競技を選んでいるような印象を与えてしまいます。

(5)さらにマイナーな問題として、生まれ星座の区分が不正確であるという 問題がありますが、(1)、(2)、(3)の問題が圧倒的に重大なので、こ れは無視してもよいでしょう。

参考のため書いておくと、ミッチェル氏が使った生まれ星座の区分は、 彼自身がZodiac Months で 説明しているように、新聞の星座占いコラムにあるような、各星座の始まりと 終わりの日が固定的に決まっているものですが、これは不正確なものです。

厳密なことを言えば、生まれ星座というのは、春分点を起点にして黄道を12 区分したときに、生まれたときの太陽がどの区分に入るかによって決まるもの であり、各生まれ星座の始まりと終わりの日は年によって変わりえますし、生 まれた時間まで分からないと生まれ星座を特定できない場合さえあります。し たがって、ミッチェル氏の使った生まれ星座は正確なものではありませんが、 これは、(1)、(2)、(3)の問題と比べると、小さな問題です。

以上に述べたように、ミッチェル氏のうお座効果が存在するという議論は、統 計的に有効な議論であるとは言えません。ミッチェル氏が示している証拠だけ では、うお座効果が存在すると結論づけることはできないのです。特に、 (1)、(2)、(3)の問題点は、ミッチェル氏の議論の有効性を著しく損 ねています。

立証責任は、うお座効果があると主張しているミッチェル氏にあるので、これ で終わりでもいいのですが、自分でもデータを分析してみたので、次のエント リで書きます。

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